Oxford Handbook of Environmental Ethics(2017)紹介企画

学術誌「環境倫理」の、Oxford Handbook of Environmental Ethics(2017)の紹介企画です。

Oxford Handbook of Environmental Ethicsの[全体の構成]

▼どのような構成なのか?
 2017年に刊行された、英語圏環境倫理学の標準的な教科書。全46章はすべて書き下ろし。詳細はこちら。

www.oxfordhandbooks.com

.

▼どのような背景で書かれるに至ったのか?
 同号のキーワードの一つに「人新世」(Anthropocene)があげられる。1950年代以前、長い期間、環境に介入し続けてきたにもかかわらず、人間の行動の集団的影響がこれまで地球上の主要な生態系のすべてを脅かすことはなかった。しかし今日、気候変動やマイクロプラスチックをはじめとして、人為発生的な環境変化は惑星規模で過去にない速度で起きており、私たちが行う決定が、私たちの基本的な生存条件を不安定化させることが危惧されるという視座から本書は編纂されている。
 人新世に生じるであろう根本的かつ人為的な環境変化にうまく対応するために、価値観や規範、概念の分析を行う必要がある。そのためには、歴史学・科学・経済学・政治学・美学・宗教学などの学問領域、原生自然・動物の権利・環境正義・エコフェミニズム・大量絶滅などのこれまで環境倫理学で論じられてきたテーマ、汚染・エネルギーの枯渇・水や食料・ジオエンジニアリングなどのさまざまな関係者が行き交う現場における、重要なトピック、基本的な観点、概念、課題、アプローチについてレビューし、さらに付随する概念や今後の可能性についての網羅的な説明を行う必要がある。本書はそのような要請にもとづいて書かれている。

▼どのような方向性を持っているか?
 本書は、「環境倫理学の政治化」――環境倫理学の枠内で、正義や責任といった政治的価値観を扱うことが、今後ますます重要になるとみなしている。そのため、想定読者としては、いわゆる環境倫理学者だけでなく、科学哲学者、政治哲学者、応用倫理学者、政治理論家、法哲学者が含まれる。理論研究者だけでなく、新しい領域に関心を持っている人々や、現場で指針を必要としている人々、次の世代の研究者に向けても、本書は多くの示唆を与えるだろう。
 同時に、本書は環境倫理学の立場から宗教や文化をほとんど扱っていない。例えば、古代中国、古代インド、古代ギリシャにおける自然に対する文化的態度に関する章はない。仏教、ユダヤ教キリスト教イスラム教などが自然をどのように見なしているかについても扱っていない。これらのテーマに関心がある読者にとっては別の論文集がより助けとなるかもしれない。